炎の鳥
アカショウビンに初めて出会ったのは1993年の6月7日でした。場所は安倍川中流部の沢沿いでした。野鳥の会静岡支部の会員がその前日、声を聞いたというので、出かけてみたのです。その時は偶然、私の目の前の谷を横切る姿を上から見る事が出来ました。「赤い鳥」と言うよりも、赤がくすんだようなレンガ色の鳥でした。その日から写真を撮る為の日参が続きました。最初は姿を見た場所辺りを中心にブラインドを張ったのですが、どうも声の方角が違うような気がして、翌日は違う場所にブラインドを張って、試しにブラインドから10m位の沢の中に、そこに転がっていた枯れ木を立てておきました。待つ事数時間。アカショウビンの声がすぐ近くでしました。ブラインドの中では声の方向がよく分かりません。四方に開けてある小さな窓から辺りの様子をうかがうのですが、声は近いのにどうしても姿を見つける事が出来ません。どうやら頭の上の木に止まっているようです。10m先に立てた木に構図を決めて、止まる事を祈りながら待ちます。その時奇跡は起きました。赤い影がまさにその木に止まる為に、木の手前で一瞬ホバリングをしたのです。また震えが来ました。その気配を感じたのか、赤い鳥は木に止まる事をやめて、そのまま対岸の木の根もとの土が崩れて、穴のようになっている中に入ってしまいました。今の出来事は本当だったのだろうか。夢だったのかもしれない。本当の事ならまだあの暗い中にアカショウビンは居るはずだ。距離にしても15m程しかない。こんなに近くにアカショウビンが居ると思うだけで、興奮してくる。あんな所に穴があるなんて、その時初めて気がつきました。暗い中に目が慣れてくると何か動くものが見えてきました。垂れ下がった根の向こう側に赤いくちばしが見えます。また、鳴き声がし始めました。目の前のこいつが鳴いているのだろうか。でも、何か違う。どうやらもう一羽がそばに来て鳴き交わしているらしい。一瞬目を離した時、目の前の鳥が姿を消した。
アカショウビンは枯れた木や、土手や崖に巣を作ると言われている。もしかして、目の前の暗い穴の中に巣でもあったら大変だ。鳥が居ない事を確かめてから、ブラインドを出て、アカショウビンが入った穴を確認してみた。幸いと言うか、この穴の向うは岩で、とても巣を作れるような場所ではありませんでした。たまたま、止まりやすい所に木があったので止まってみようとしたら、怪しい気配を感じて、慌ててそこへ逃げ込んだだけらしい。
しかし、この時の興奮は忘れられません。こんな近距離でアカショウビンの全身を捉えていながら、かんじんな所は全く見せてくれないのですから。
その後、何度か此処の沢でアカショウビンと遭遇していますが、未だに写真を撮らせてくれません。今でもアカショウビンは来ているようです。
これで終わっては申し訳ないので、アカショウビンの全身の写真もお見せします。ただし、これは静岡のアカショウビンではありません。
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